海へ行く前に / Before going to the sea

ARTS & CRAFT

Exhibition 『 侵食  Erosion 』写真家 大湾朝太郎 X 陶芸家 山本憲卓

“柔らかで美しい曲線の岩を眺める静かな時の中、使うたびに、ゆっくりと変わり続ける器の表情を感じながら”

水や風、光や熱などの自然現象により長い時間をかけ変化してきたもの、また現在進行形で変化し続ける行為を侵食という。普段見慣れている自然風景は、決して普遍的なものではなく大きな時間の流れと共に、変化し続けている。そのゆっくりとした変化に魅せられた二人の陶芸家と写真家。陶芸家は、火の力を使い、長い時間をかけて生まれた美しい自然風景を知識や感性で生み出し写真家は、独自の視点で、その美しさや力強さを切り取る。

陶器と写真の共鳴。

展示されている全ての作品をご購入できます。

皆様のご来店を心よりお待ちしております。

【会期】
2023.4.21fri・22sat・23sun / 4.28fri・29sat・30sun 
11:30am – 5:30pm 

【会場】
MARÉE
沖縄県名護市《許田ICより車で5分》

『静かな集落のため、集落内はゆっくりと運転してください。ご理解の程よろしくお願いします』

MARÉE(マレ)は、フランス語で潮の満ち干きや潮流を意味しています。世界をボーダレスに繋げる『稀』な人や作品と出会える 空間として、那覇市壺屋・GARB DOMINGOの離れの様な感覚で、しばらくの間は不定期にオープンすることになりました。 築50年の解体寸前のコンクリートブロック造の民家をリノベーションし、普通の家の延長線上にある場として試験的に稼働。 土地全体に解体されたコンクリート片が地中に埋設されているため地道に掘り起こし、地道に植栽中。 不定期にテーマのある展示会を開催するので、緑の成長と共に見守っていただけると幸いです。

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写真家 大湾朝太郎

photographer Chotaro Owan

沖縄県出身 2002 年にフリーフォトグラファーとして独立。 2009 年まで、沖縄の音楽やアート、ファッション カルチャーを県内外に発信する雑誌のフォトグラファーを務め、 以降アーティストのポートレートやライブなど、音楽シーン を中心に活動。現在は広告、雑誌、wedなどの幅広いメディアの撮影を手掛ける。 沖縄の魅力を世界に発信するコンテンツBe Okinawaのポスター撮影などもしている。

青い海に囲まれた沖縄で生まれ、暮らしと隣り合わせにある海は、あくまでも遊び場であった。写真を撮るようになった20代、朝太郎にとって心に響く風景は、日常の延長線上にある街並み、錆びたトタンや剥がれたペンキに彩られた路地裏やストリートで、そこに生きる人々の躍動そのもの、ストリートカルチャーだった。 世界各地に移り住んだ沖縄ルーツの人々が集まる世界ウチナーンチュ大会での撮影を依頼された際、まるで風土の違う土地に移り住み、伝統や習慣を受け継いだ日系2世、3世と接することで、失われつつある沖縄のルーツの魅力や古き良き「沖縄らしさ」を感じたと言う。 『今、沖縄をはじめ、世界全体が急速な変化により、ターニングポイントを迎えている。もともとあった自然や生き方、それらを支える建造物や文化を残すか、経済を優先した新しい開発か。良くも悪くも大きく島は変化し、風景も大きく変わっていくだろう。経済的な活動は生きるために必要ではあるが、ゆったりとした沖縄らしさやカルチャーが残って欲しい』と話す。 この変化に寄り添うように、大きな時間軸で変容し続ける自然の存在。 これまで感じていた格好良さの延長線上に見出した岩肌や乾ききった赤土の表情や造形をグラフィック表現として写すようになる。きっかけは、無意識に撮った風景に映し出された岩肌や土の表情をあらためて写真として見ると、そこには生命力と躍動感があったと言う。最初は、あくまでも動かない風景として捉えていたが、やがてストリートの様な躍動に満ちた動的な対象物としての意識が生まれ、そこから感じる美しさや強さを写し出すようになった。 人物や静物、主観と客観という対極にある視点を共存させることで、時間軸と空間軸がクロスオーバーし、被写体に深みや奥行きが増し絶妙な魅力を映し出す朝太郎の写真には、変わらないものではなく、変わり続けているものを感じ取れる。 本展の『侵食』シリーズは、 世界最小、最軽量(2011年に発売された当時)と謳われたPENTAX Qを使った岩の写真が中心となる。現在、デジタル写真はより高解像度化しているが、不思議なことにセンサーの小さなこのカメラが捉えた世界は、まさに伝えたい魅力に溢れていた。写真が綺麗に見える必要はないと感じるようになっていたこともあり、無意識に眺めている時の様な、その対象物に宿る生命力のような輪郭を写し出した。 海辺の岩は、激しい雨や風、波などにさらせれ緩やかに柔らかく変化しているにも関わらず、まるで変わらない安堵のようなものが存在する。この侵食され続ける岩の世界に、逆境にも柔軟に生き延びた日系2世、3世の強くしなやかな生き様と古き良き沖縄らしさを重ね合わせているのかもしれない。表現者として、解像度では語れないルーツを感じる様なものをアウトプットしていきたいと語った。

< 朝太郎 写真作品集 >

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陶芸家 山本憲卓

Ceramicist Noritaka Yamamoto

三重県出身、沖縄県立芸術大学卒業後、大嶺實清氏に師事、2016年読谷村長浜にヤマモト工房設立 自然に生み出された美しさを意識し、土本来の良さを損なわないよう、 土そのものに含まれている成分や性質を生かし焼きあげ出る色や溶けだすような不均一、不完全さを意識した器やオブジェを制作。 最近では、世界一のレストランと呼ばれるデンマーク・コペンハーゲンの” noma” が手がけるnoma kyotoにて食事を提供する器に使われている。

真珠の生産地としても知られる三重県の伊勢志摩国立公園の中心である英虞(アゴ)湾に囲まれた港町で育った山本。英虞湾は、砂や泥、サンゴの死骸などが長い年月をかけ堆積した地層が、プレートの動きにより隆起し、さらに年月とともに柔らかい部分が水や風で風化したリアス海岸である。その風景は、現在も変化し続け、幼い頃よく遊んでいた海辺に行くと、まるで違う風景になっていて驚いたと言う。大学進学を機に、移り住んだ沖縄は、現在の制作拠点となっているが、特に工房のある読谷村長浜は、海の色は違うものの黒潮の流れの先にある生まれ故郷とどこか似ていて、自然な姿でいられる所以である。 本展では、海や川の石のように、水の流れの中で緩やかに削られていく作品に取り組んでいる。作品を外で乾かしている最中、大雨が降り、その作品に残った雨あとに心を揺さぶられたという。陶芸といえば、土と火が中心となるが 、山本の中では水というものも制作の核となっている。 沖縄の原土に近い素材を成形し、低温焼成したあと、陶芸ではよく使われる道具を使い、作品同士をぶつかり合わせ、海や川にある柔らかな石のような、自然な姿を生み出せないかとイメージしている。その作業は幼少期に体感していた侵食された故郷の風景を作品に落とし込んでいるかのようだ。 大学受験の際に、彫刻への憧れを持っていたが、粘土を褒められたことで進む道を決めた。先生に好きなものは何かと聞かれ、『ものを磨くことです』と答えたら、そんな難しい答えはいらないと返答された。磨くことが好きというのは相変わらずあり、現在も体に負担をかけるほど磨き続けている。当時から素直さが伺える山本だが、外から見える外形的なビジュアルを大事にしていた時期が長く続いたと言う。素材が持っているイメージに近づけたい一心で、焼きあがった作品を研磨したり、轆轤での成形も何度も何度も触ることが多かった。削ることも含め、よく魅せたいという気持ちと自信のなさの表れだったが、最近になり、窯の中の環境を操作することによって、その素材が持つイメージに近づけていくアプローチへと変化している。この手を離す時間を大事にし、見たことのない表情を引き出したいと話す。 そのターニングポイントとなった作品が沖縄の海洋由来の泥である『クチャ』を使った作品だった。焼成の際、鞘に炭をいれ、酸欠状態にすることでクチャが酸素を求め、膨張し作品となる。それはまさに手で触らずに、素材が持つ形を体現した瞬間だった。 その作品に価値を見いだすことが、現在の制作の基軸となり、外から内側へ意識の変化だった。本来の素材の空気感を変えないために、土との対話を繰り返す。 強い火の力に耐えうるものに魅了され、できる限り触らずに、その土が内包しているイメージを素直にビジュアル化していきたいと話す。

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maree

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more fish than plastic

地球の海には、魚よりプラスティックが多くなると言われています。 それは本当に美味しくない話。 少しでも海に触れて、プラスティックより魚が多い世界を作れるように 海のことを考えるきっかけになれば良いなと考えています。そのためには、まずは海に行くことですね。

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